親子関係・夫婦関係に悩んでいる全ての人に読んでもらいたい、「母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き」
つい先日「母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き」を読んだ。
これについての感想をつらつらと書いていこうと思う。
まず初めに声を大に出して言いたい、現在自分の親子関係に悩んでいる方(父親母親どちらでも)、自分の夫婦関係に悩んでいる方に是非読んでほしい。
本書が自分の周りの家族関係について紐解いていくきっかけになる一冊になるだろう。
「母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き」に出会ったきっかけ
きっかけは田房永子さんが書かれている「母がしんどい」の解説を読んでいた時のことだ。
解説は本書の著者である信田さよ子さんが書かれていた。
解説を読み始めると、母娘問題の解決はあるのか?という問いに対して「母親研究こそが母からの呪文を解く力にもなる」と書かれていた。
「これは一体どういうことだ?母親研究ってなんだ?もっと知りたい」と思い信田さよ子さんの著書を調べ、今回紹介する本書に出会った。
「墓守娘」とは
そもそも「墓守娘」とは何なのか。
本書で扱われる「墓守娘」とは、進学や就職、結婚、介護、実家の管理、先祖の墓を守ることまで、親の望みを引き受けようとする「娘」として生きようとする女性を指す。
「墓守娘。」
なんて重苦しい響きだろう。親の期待や思いがずっしりと重くのしかかりまとわりついてくるようだ。
このまとわりついてくるような感覚をなんと表現したらいいだろうか。母親からの期待、願望、絆、嫉妬など色々な感情が入り混じっている感覚、というだろうか。
本書は母親とのこじれた関係に苦しみながら、罪悪感にとらわれている女性たちに焦点を当てつつも、その母親と父親の姿も照らし出す本だと私は解釈している。
私は墓守娘側としての立場で読んだのだが、照らし出された母親父親の実態が明らかになることで心に大きな変化があった。
本書を読んで伝えたいことはいくらでもあるし、本にたくさん付箋も貼ってあるのだが、初めて本のレビューを書くのでどこまでネタバレしていいのか塩梅が難しい。
ただ、本書のカテゴリーは小説とは違ってネタバレ厳禁!!みたいなものでもないかと個人的には思う。
本書は心に刺さる言葉がたくさんあるので、そこは本を読んで著者からのメッセージを受け取ってほしいため核心部分は伏せつつ主に感想を書いていきたいと思う。
私的おすすめポイント
いくつも語りたいことがあるが、私が読んでいて特に語りたい部分は以下だ。
- 母親と娘の関係のみだけでなく、父親についても書かれている。
- 母親分析と母性の分析。
- 娘に対する処方箋。
まず、「父の存在はどこに?」という章で母親と父親の関係性によって「なぜ娘が母をしんどく感じるのか」を解説している点が良かった。
子どもは当然ながら母親のみで産まれるわけではない。父親という存在がいる。透明化、もしくは傍観者のような父親にも焦点を当てている。
次に、母親分析の章だ。母親の娘に対する態度をもはやグロテスクと言っていいほど具体的な書き方をしている。
最後に、娘に対する処方箋という章だ。
さすが公認心理師というか、娘が母親に対してどういう思いを持っているかをありありと書かれている。特に、娘の本心はこう思っている、という文章が核心を突いていた。
父親の構造
まず、「父の存在はどこに?」という章を読んだ時「墓守娘が生まれてしまう家庭ではその父親が家族と向き合うことから逃げている」という感想を抱いた。
DVなど過剰に暴力的だったり、「これは母と娘の問題だから」と傍観者の立ち位置でいたり。その形態は様々だ。
形態は様々だが、共通して思うのは「家族の話を向き合って聞いていないこと」。
これはよく思うのだが、「親になる覚悟が足りない」「甘えている」とかの本人の気力じゃなく、ジェンダー格差や社会構造的なものがこの「逃げている父親像」を生み出しやすくしているのではないかと私は考えた。
調べてみると、「父親は仕事、母親は家庭」という形は、昔から当たり前だったわけではないらしい。
高度経済成長期になると、男性は会社へ働きに行き、女性は家事や育児を担うという形が広がっていった。
会社にとってもこの形は都合がよかった。
夫が残業や転勤をして長時間働いていても、家には妻がいて子どもが熱を出しても学校から呼び出されたと、日々の家事、育児全て妻が対応してくれる。
つまり、男性が仕事に大量の時間を使える生活を家庭にいる女性が支えていた。
その結果、父親に求められる役割も「子どもの世話をすること」より「家族を養うこと」になっていった。
父親本人も家庭を放って仕事をしているつもりではなく、むしろ「家族のために働いている」と考えていたのだと思う。
そしてこの分業は、企業だけではなく税制や社会保障にも組み込まれていった。
こうして、
父親は仕事をする人。
母親は家庭と子どもを担う人。
という形がどんどん強くなっていったようだ。
こうして父親は仕事をする人という世間の固定概念が出来上がり、逆に「仕事に時間を使えない父親」はその概念に反するので不利益を被ってしまう。
その不利益が怖いためにますます家庭に割く時間がなくなり、仕事に逃げる父親像が出来上がるという考えに至った。
共感を呼ぶ母親分析
母親分析の章を読み進めて抱いた感想は「グロテスクだな」という感想だ。
なんというか、薄々感じていた気持ち悪さが輪郭を帯びてはっきりとしてしまった、という感覚だ。
本書は私が冒頭に疑問に思っていた「母親分析とは?」について、母親たちの分析を徹底的に行う章がある。
そこでは母親たちがいかに巧妙な手法を使って娘や家族を支配しているか、そしてその娘たちの痛みがとても具体的に書かれている。
その巧妙さを私は「グロテスク」だと感じた。
もうこれはどういう手法が使われているかを取り上げられている事例が「私と母のやりとり見ていましたかね?」というぐらい具体的すぎてグロテスクという言葉がぴったりなので、母親との関係に悩んでいる方と本書を読み合って「これ!!うちの親やってた!!」と共感しあいたいぐらいだ。
そしてこの母親分析をした上で、「なぜ母性が造られたのか」という母親が持つと言われる「母性」にまで言及している。
「母性」とは何なのか、を社会学や歴史的な背景を踏まえながら解説されている箇所のおかげで、「母性」というカラクリを解き明かすことができた。
このことにより一段と母親分析の精度が上がった。
母親が当たり前に持っている「母性」についてメスを入れるこの章は後の「墓守娘に対する処方箋」の章にも関わってくる。
墓守娘に対する処方箋の章をぜひ読んでほしい
私はこの章で肩の荷が降りたような感覚になった。
このブログでは散々母や父に対する怒りや悲しみを自覚して書き綴っていたが、
「なんだよ、悩んでいたことがバカらしくなってきたな」という気持ちになった。
とは言っても、母親や父親からされたことは私の心を傷つけたし、傷ついた心は癒やされないままなのでそこは別問題として心を回復させる作業が必要だろう。
この章は墓守娘に向けての「処方箋」なので、解決に向けての具体的な考え方やアクションが書かれている。
具体的な考え方やアクションについて書くのは差し控えるが、解決に向けての一歩を踏み出す勇気を貰える内容だった。
「私が苦しんでいたのはこれだったのか」とハッとして手を止めて何度も読み返した行もある。
やっと原因がわかった、と言うような感覚だ。
この感覚を裏付けるように丁寧に何度も読み返して、「ああ、これがこの部分に繋がってくるのか」と感動を覚えた。
そして、この章の後に書かれている「解決方法はあるのか(文庫化に際して)」の章も合わせて必読だ。
総体としての親子関係の解決方法がまとめられている。さらに、それに関する娘たちの考えも「そうなんですよ」と言いたくなるくらいわかっている書き方をされている。
百聞は一見にしかず。何度も言うが親子関係に悩んでいる人はぜひ読んでほしい。
夫婦関係に悩んでいる人にもなぜ読んでほしいのか
本書は「母親と娘」だけではない。父親の存在にも言及している。
この父親達に対してピシャリとはっきり言ってくれているのが本書だ。
世の中のダメンズ父親たちに送りつけたい。
私は本書を読んで「母と娘の問題がなぜ拗れるのか?それは父親が責任を果たしていないからだ」と言う結論に至った。
この結論に至るまでは本書が丁寧に書いてあるので詳しくは書かないが、つまるところ「夫婦のの問題の皺寄せは子どもにいく」ということだ。
逆に言えば、父親がきちんと責任を果たしていれば家族は正常に機能して良い関係性になっていくと考える。
もし夫婦関係に悩んでいたら一度見直すために本書を読んでもいいかもしれない、と思い夫婦関係に悩んでいる人にもおすすめさせていただいた。
私も子どもがいるが、本書を読んでからより夫と健全な関係性で居ようと改めて思った次第だ。
まとめ
私は本書を読んで、これまで「母がしんどい」「父が嫌い」と個人の問題として見ていたものが、家族全体の関係性や社会の中で作られてきたものでもあるのだと気づいた。
特に良かったのは、ただ「あなたは悪くないよ」と慰めるだけではなく、「ではこの関係をどう見ればいいのか」「ここからどうしていけばいいのか」まで書かれているところだ。
だから読み終えた後に残ったのは、親に対する怒りが増した感覚ではなかった。
むしろ、「なんだ、そういうことだったのか。」と肩の荷が降りた気持ちだった。
もちろん、それで過去に傷ついたことがなかったことになるわけではない。
そして、田房永子さんの『母がしんどい』で読んだ「母親研究こそが母からの呪文を解く力にもなる」という言葉も、まだわからない。
母親研究をするために、まだそこまでのエピソードを思い出せないし実践していないからだと思うが、ここはプロの力を借りないとわからないところなのだと思う。
ただ、母親研究するための材料は揃った感じがあるので、材料を使ってどう自分の中の気持ちを整理していくかがこれからの鍵となるだろう。
親子関係に悩んでいる人。
母親だけではなく父親に対しても引っかかりがある人。
そして、自分の夫婦関係やこれから作っていく家族について考えたい人。
本書をぜひ一度読んでみてほしい。